ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 レビュー|より様々な描写力で使い分けるレンズ

大和田良
ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 レビュー|より様々な描写力で使い分けるレンズ

はじめに

今回取り上げるニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4について触れる前に、まずは35mmというその画角について考えてみたいと思います。
私が大学で写真を学んでいた写真学生の頃、はじめに渡されたのは50mmの単焦点レンズでした。これ一本で撮る感覚をまず身につけろということですね。いわゆる標準レンズを元に、写真に写る画角というものを徹底的に目に覚えさせるためだったのだと思います。

35mm?50mm?

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/2000秒 f/5.6 ISO100

その後ある程度課題が進んでいくと、35mmの単焦点レンズを使う機会が訪れます。もうひとつの常用レンズとして、35mmの画角が提案されるわけです。標準の画角に相当する50mmに対して、準広角に分類される35mmは、当時かなり広く写るように感じられました。対角画角で表すと、50mmは約47°、35mmは約63°になります。感覚的に言うと、被写体をぐっと凝視して視界が狭まった時の画角に似ているのが、50mm。対して、目の前の風景全体を自然に眺めた時の広がりが、35mmの画角には感じられます。当時の学生たちの間では、もっぱらこのどちらを常用レンズにするのか、完全に意見が二つに分かれるような状況だったことを思い出します。

 

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f8 ISO500

普段スナップ写真を撮る学生にとっては、絞り込んで目の前の風景をビシッと捉えるのなら35mm、自分の視点をより抽象化して被写体をグッと浮かび上がらせるには50mmという感じでしたし、人物を撮影する学生にとっては、より大きなぼけが得られる50mmと、より近くで撮影できて適度な遠近感が得られる35mmという感じでした。私はどちらかというと均整の取れた、情報を整理した構図を作るほうが好みだったこともあって、当時は50mmを使うことが多かったように思います。35mmを常用するようになったのは、雑誌などの商業写真に携わるようになった頃で、人物を撮影する際の開放感のある広がりや、適度な疾走感が表現として使いやすいことに気づいてからでした。
その時よく使っていたのが、AI AF Nikkor 35mm f/2Dでした。軽く、コンパクトで非常に使いやすいレンズでした。その後しばらくして、AF-S NIKKOR 35mm f1.4Gが発売されてからは、美しいぼけが利用できることで、少し大きく重くはなりますが、f1.4を選ぶようになったように思います。

 

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f/2.8 ISO110

幅広い映像表現を得られるNIKKOR Z 35mm f/1.4

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f/2 ISO450

さて、現在のZマウントレンズには、既にNIKKOR Z 35mm f1.8 Sがラインナップされており、35mmの画角を好む方にはお使いいただいているのではないかと思います。今回取り上げたNIKKOR Z 35mm f/1.4との違いは、Sラインであるかどうかと、開放F値の違いといったところが大きいでしょう。重量はf1.8が370グラム、f1.4が415グラム。寸法は73mm x 86mmと、74.5mm x 86.5mmですので、両者に携帯性などの面ではさほど違いは無いと思います。価格という面では、Sラインであるf1.8のほうが高く販売されています。
それでは、どのように二つのレンズの使い道を選べば良いのでしょうか。

 

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/200秒 f/11 ISO100

細かい評価は後にして、私の意見を述べておくと、より高い画質を望むのであれば、NIKKOR Z 35mm f1.8 S。より幅広い映像表現を得るのであれば、NIKKOR Z 35mm f/1.4というところだと思います。特に絞り開放時の点光源の再現や、風景撮影などで画面の隅々まで高い解像力を必要とされる方には、NIKKOR Z 35mm f1.8 Sがおすすめです。実際にメーカーの公表しているMTF曲線を読み取っても、f1.8は高い性能を期待できるのが分かります。さすがにSラインに位置付けられるだけあるものだと言えるでしょう。それでは、f1.4は随分劣るのかと言われると、単にそうは言い切れません。現代のZマウントレンズはそもそもどれを選んでも必要十分な映像を提供してくれます。実際に比べてみれば、画面周辺や絞り開放時の解像度の低下、収差の影響などはみられますが、絞り込むことでどちらのレンズを用いたのかは、解像感だけではほとんど判断できないものになると言えます。

先ほど、幅広い映像表現を得るのであれば、f1.4だと言ったのもそこに理由があります。解像度の低下や各種収差の影響は、それだけで見ればネガティブな要素に感じられるかもしれませんが、レンズの表現として見込めば、より様々な表現が可能になるものです。滲んだような表現や、オールドレンズ感覚のラフな再現、あるいはf1.4という明るい開放F値から得られるぼけなどは、本レンズでしか得られない映像を生み出すことができるでしょう。全く破綻のない緻密で明瞭なイメージだけが、魅力的な写真を生み出すとは限らないわけです。
実際に、本レンズで捉えた写真を見てみましょう。

条件次第ではSラインに劣らないクオリティ

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f/1.4 ISO200

例えば上の写真は、絞り開放で室内の風景を捉えた一枚です。画面中央の鉢植えにフォーカスした状態で、カーテン越しの逆光が広がっています。柔らかな描写が、雑然とした窓辺の景色を立体的に描き出しているのが分かります。拡大してみると、輝度差の大きい輪郭部分などには偽色が見られますが、RAW現像時などに画像処理できることを考えれば、一枚のスナップ写真としてはさほど大きな問題にはならないでしょう。

 

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f/1.4 ISO400

こちらの写真もまた、絞り開放で撮影した一枚です。画面中央に位置するフォーカス部分は、紙製のストローや指の質感まで高く解像していることが分かります。近距離での撮影ですが、背景の自然な広がりと大きなぼけが印象的です。

 

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f/2.8 ISO180
■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/1000秒 f/2 ISO100

本レンズの最短撮影距離は、0.27m。最大撮影倍率は0.18倍です。距離的には極端に寄れるレンズと考えられるわけではありませんが、近接距離でも十分な解像を行い、コントラストの高い映像が得られます。F2に絞ったものとF2.8に絞った写真を見てみると、開放から少し絞り込んだことで、画面全体で良好な画質が得られていることが分かります。

 

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f/8 ISO125

さらに絞り込んで撮影したモノクロでは、精緻な描写が確認できると共に、ハイライトからシャドウまで滑らかに調子が再現されていることが、モノクロームの仕上げから良く感じられます。このシーンでは、光源部分からのフレア等の影響も感じられません。

 

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f/2.8 ISO1400

一方、さらに強い逆光のシーンで撮影した下の写真における夜景のイメージでは、投光器を中心にフレアが感じられると共に、ゴーストが発生しているのが分かります。ただし、フレアの影響は画面全体には及んでおらず、高いコントラストを維持していることが確認できます。一枚の写真としては、非常に印象的な仕上がりになった例だと言えるでしょう。

 

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f/1.4 ISO12800

夜景という点では、暗い場所での手持ちスナップも大口径レンズならではの撮影と言えます。開放F値で撮影しており、滲みがあるもののよく解像していると言えるでしょう。ただし、同じ開放F値による撮影において、より破綻の少ない高画質を求めるのであれば、NIKKOR Z 35mm f1.8 Sが適している場合も多いのではないかと思います。

 

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/125秒 f/11 ISO125

明るい場所で絞り込んで撮影した祭りの写真では、拡大しても画面周辺まで十分な解像感が感じられ、高い描写を得ることができます。F値を絞り、条件の整ったシーンで撮影した場合、Sラインに劣らないクオリティが得られることが確認できるでしょう。

おわりに

様々なシーンでの撮影結果を見ると分かるように、条件やF値によって本レンズの描写は非常に多様であり、多彩な映像表現を使い分けることのできる一本だと言えるでしょう。NIKKOR Z 35mm f1.8 Sとの使い分け方も踏まえた上で、是非新たな写真表現に活かしてみてほしいと思います。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 35mm f/1.4
■撮影環境:1/1000秒 f/2.8 ISO100

 

 

■写真家:大和田良
1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。

 

 

関連記事

人気記事