ネイチャースナップのすすめ|薫風かおる季節をNikon D500で撮り歩く

小林義明
ネイチャースナップのすすめ|薫風かおる季節をNikon D500で撮り歩く

はじめに

北海道のサクラはゴールデンウィーク頃にやっと満開をむかえる感じで、本州と比べるとかなり遅いです。今年は5月13日に地元(釧路地方)の最後のサクラが満開になったのを確認。そして、サクラが終われば森はどんどん緑に覆われて、暖かく心地よい季節の始まりとなります。

今回は薫風かおる季節に咲く、オオバナノエンレイソウの群生地を歩きながら、Nikon D500を片手にネイチャースナップして来た様子をお伝えします。

遠出して空振りしないために

サクラが終わっても自宅周辺はまだかなり地味な景色のままなのですが、北海道は広いので遠出すればずいぶんと景色が変わります。札幌と私の住む釧路のあたりでは2週間以上季節が違います。そこで、今回は自宅から200Kmほど離れたオオバナノエンレイソウの群生地を第一目標にします。ちょうど見頃になっているはずです。

闇雲に移動しても無駄になることもあるので、遠出するときは確実な被写体がある場所をひとつ決め、その周辺を撮り歩くような計画を立てるようにしています。例えば滝があるところとか、湖があるところといったような場所でもかまいません。このような被写体なら、よほどのことがなければ被写体がないということはありませんよね。ただ、ここ数年では滝までの林道が大雨で崩れて行けないということを何度か経験しているので、事前の確認は必要です。

そして、第一目標の被写体を撮影しながら、他の被写体も探して行くようにしていきます。

撮影地に向かうときに見えてきた緑溢れる景色。新緑の防風林の向こうには、雪の残る山並みが見えてきて、地元よりもずっと早い季節を感じられた。道東とひとくくりにされるエリアの移動だが、自宅から200Kmほど移動していて、北海道の広さを実感する。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON SP 70-200mm F2.8 Di VC USD G2
■撮影環境:F11 1/100秒 ISO200 WB太陽光

オオバナノエンレイソウの撮り方あれこれ

オオバナノエンレイソウは花の直径が5~7cm程度で白い花びらが三枚あります。一回り小さなミヤマエンレイソウとともに北海道ではあちこちで見られ、林床を明るくしてくれる花です。

今回の群生地では一面オオバナノエンレイソウとニリンソウが咲いていて、この広さをどう表現するのかに苦労しました。というのは、ただ広く撮影するだけだと花のひとつひとつが小さく写り、なんだか分かりにくくなってしまい、花を大きくすると広さが伝わりにくくなってしまう感じがするのです。

またオオバナノエンレイソウは花の形が分かりやすいように見せるには、上から見た方が伝わりやすいです。しかし、花の密度感をあげるためにはアングルを下げて望遠で引き寄せる方がいいので、花の形が分かりにくくなります。このあたりも苦労した点です。

単純に一輪の花を分かりやすく撮影するのは簡単ですが、周りの雰囲気をどう画面のなかに分かりやすく盛り込んでいくかがひと味違った花の写真を撮るポイントといえるでしょう。

技術的なポイントとしては、花が白く晴天でコントラストが高かったので、花を白とびさせないように注意しました。主要被写体が白とびしていると、RAWで後処理したときにも不自然な感じに仕上がりやすいからです。とくにNikonのカメラはハイライトが飛びやすい感じがしていて、ピクチャーコントロールのコントラストを下げるなどして対応しました。

この群生地ではレンズを変えたりしながら同じ場所を三往復くらい歩いて、二時間ほどオオバナノエンレイソウに癒されてきました。歩くたびに光が変わったり、以前気づかなかったものが見えてきたりして、飽きることもありませんでした。

到着したオオバナノエンレイソウの群生地。林床一面にオオバナノエンレイソウとニリンソウが咲いていて、遠目に見ると白い絨毯のようだ。タイミング良く、ほぼ満開の時期に訪れることができた。オオバナノエンレイソウは比較的花期が長いので撮影しやすい花といえる。
■撮影機材:Nikon D500 + AF-S DX NIKKOR 18-140mm F3.5-5.6G ED VR
■撮影環境:F10 1/250秒 ISO200 -0.3EV WB太陽光
超広角の画角で広がりを感じられるようにフレーミングした。花の密度が高く花がこちらを向いている場所を探して撮影している。また、日中の撮影ということもあり、影がバランス良く入れることで画面に変化を出している。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON 10-24mm F/3.5-4.5 Di II VC HLD
■撮影環境:F11 1/60秒 ISO200 -1EV WB太陽光
オオバナノエンレイソウの形を強調するために、広角接写的な撮り方をした。背景に森の様子も入れることができ、群生の雰囲気もある程度残すことができている。超広角で花に近づけるようライブビューに切り替え手を伸ばして撮影しているため、ISO感度を高くしている。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON 10-24mm F/3.5-4.5 Di II VC HLD
■撮影環境:F5.6 1/800秒 ISO800 +0.7EV WB太陽光
望遠レンズの画角でオオバナノエンレイソウをスッキリと見せている。一輪の花を強調するために手前の花は大きくぼかしたが、右側の花はぼかしきれないため花びら切るようにして、中央の花を主役として画面構成している。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON SP 70-200mm F2.8 Di VC USD G2
■撮影環境:F2.8 1/400秒 ISO200 +0.3EV WB太陽光
オオバナノエンレイソウの影が葉の上に落ちていた。花そのものもきれいだが、影がしっかりと花の形になっていたので、気になって撮影した一枚。なんどか同じ場所を見て歩くと、こんなシーンにも目が向くようになる。
■撮影機材:Nikon D500 + AF-S DX NIKKOR 18-140mm F3.5-5.6G ED VR
■撮影環境:F6.3 1/320秒 ISO200 -0.7EV WB太陽光
林の雰囲気が感じられるカットも撮影しておきたくて、オオバナノエンレイソウを超ローアングルから見上げるように撮影。ライブビューとチルト式モニターの組み合わせは、ローアングルの撮影が楽に行えるのでありがたい。ライブビュー時のAFはもたつくこともあるので、ときにはMFに切り替えた方がスムーズなこともある。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON 10-24mm F/3.5-4.5 Di II VC HLD
■撮影環境:F11 1/80秒 ISO200 -1EV WB太陽光
花の撮影ではあまり意識されないかもしれないが、葉のテカリはけっこう画面の中で目立つもの。C-PLフィルターを使うことで葉のテカリを抑えてきれいな色を再現することができる。左はフィルターなし、右がC-PLフィルターでテカリを抑えたもの。このような白い花の場合は、背景が白くなると花自体が目立ちにくくなるので、効果は大きい。
白トビをおさえるために、ピクチャーコントロールの「コントラスト」をおさえて撮影した。オートの設定もあるので、難しいことを考えたくなければ、オートでもいいかもしれない。「アクティブDライティング」を使うことでも同様の効果が得られるが、Mモードでは使えないので注意しよう。

一仕事終えたあとに

第一目標のオオバナノエンレイソウを一通り撮影できたと思ったら、それで終わりにするのではなく、その近くで違う被写体を探していきます。この場所は近くに小川が流れていたので、川に沿って歩いて行きました。

川面のきらめきや、水草の様子、川岸に咲いている花々など、ゆっくり見ていくといろいろな被写体を見つけることができました。また、気持ちを切り替えて耳澄ませれば、近くで小鳥の鳴き声が聞こえてくることもあり、静かにその姿を探してみるのも楽しいものです。

定番の写真しか撮れない人の多くが、目的の写真を撮ったらすぐに移動してしまっている感じがします。せっかく出かけてきたのですから、その周りもよく見て他に撮ってみたいと思う被写体がないか探してみるといいと思います。

小川の川底には水草が伸びていて、水の中も緑の季節になったことを感じた。水面に木陰や太陽の反射を入れて、奥行きの感じられる画面構成とした。歩きながら撮ってみたいと思える場所を探すだけだが、人によって感じ方が違うので個性が出やすい撮影シーンだ。
■撮影機材:Nikon D500 + AF-S DX NIKKOR 18-140mm F3.5-5.6G ED VR
■撮影環境:F11 1/40秒 ISO400 -0.7EV WB太陽光
小さな池になっているところもあり、水面に森の様子が映り込んでいるのが美しかった。視点が反射の部分に集まるように、実際の空は画面に入れないようにして切り取った。
■撮影機材:Nikon D500 + AF-S DX NIKKOR 18-140mm F3.5-5.6G ED VR
■撮影環境:F11 1/250秒 ISO1600 +0.7EV WB太陽光
コケのついた岩の横を流れる川面のきらめきが美しかった。この流れを表現するために、シャッター速度を遅くして、適度にきらめきがぶれるように調整して撮影。シャッター速度を変えながら、何カットも撮影してイメージ通りに表現できた。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON SP 70-200mm F2.8 Di VC USD G2
■撮影環境:F8 1/50秒 ISO100 WB太陽光
川岸に咲いているエゾノリュウキンカ。遠くに咲いていたことと、水辺の雰囲気を伝えるために、超望遠で引き寄せながら背景に玉ボケを入れて撮影した。玉ボケは水面のきらめきなのでシャッターを押すタイミングで画面に入る位置や数が違うため、何カットも撮影してうまく入ったカットを選んでいる。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON SP 150-600mmF5-6.3Di VC USD G2
■撮影環境:F8 1/640秒 ISO200 +0.3EV WB太陽光
青空が映り込んで川面を背景にエゾオオサクラソウが咲いていた。淡い青とピンクのコントラストがきれいな上、良い感じにエゾオオサクラソウに木漏れ日が当たっていて、小さな花を引き立てることができた。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON SP 70-200mm F2.8 Di VC USD G2
■撮影環境:F11 1/100秒 ISO200 +0.7EV WB太陽光
ピークを過ぎていたが、ミズバショウがまだ残っていた。傷みが目立たないようにするため花を小さめにフレーミングして水辺に咲く雰囲気を強調し、季節の移り変わりを感じられるカットにした。花だけをアップで撮影したら、中途半端な写真になってしまっただろう。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON SP 150-600mmF5-6.3Di VC USD G2
■撮影環境:F6.3 1/1000秒 ISO1600 +0.3EV WB太陽光
森を歩いていると、近くで小鳥のさえずりが聞こえてきた。声を頼りに目をこらして探してみると、アオジが元気にさえずっていた。北海道だとこんな出会いも多いので、超望遠レンズは手放せない装備となっている。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON SP 150-600mmF5-6.3Di VC USD G2
■撮影環境:F7.1 1/800秒 ISO800 +1EV WB太陽光

銘機D500の印象

動体撮影機として人気の高い、Nikonの一眼レフカメラ「D500」。私が購入したのは2017年で、一番の目的は4K動画の撮影用でした。当時はまだ4K動画機能を搭載した機種も少ないなかで、比較的お手頃価格であったことと、いきものの撮影用としても利用できるというもうひとつの目的も満たせるボディとして選びました。

スチール撮影では、タンチョウやエゾリスなどのいきもの撮影で利用してきて、生産終了となった今でも多くの人がいまだに愛用しているように、精度の高いAF性能とハンドリングしやすい適度な画素数などが気に入っています。さすがにいまのミラーレス一眼ほど連写は速くないですが、実用的には十分だと感じます。XQDカードとともにCFexpress Type Bカードに対応しているのも便利です。

北海道のあちこちで出会うことができるエゾリス。動きも速いのでカメラの反応速度も速くないと撮り逃してしまうことがある被写体だ。走ってきて木の幹につかまった瞬間を撮影した。ここにいたのは数秒で、こういった瞬間を逃さず捉えてくれるD500への信頼性は高い。
■撮影機材:Nikon D500 + TAMRON SP 150-600mmF5-6.3Di VC USD G2
■撮影環境:F5.6 1/400秒 ISO6400 +1EV WB太陽光
遠くに見える滝を1/6秒のスローシャッターで撮影。ISO感度を拡張してISO50の設定ができるのは、風景撮影では有利なところ。手ぶれ補正もしっかり効いていて、手持ち撮影でも十分対応できた。
■撮影機材:Nikon D500 + AF-S DX NIKKOR 18-140mm F3.5-5.6G ED VR
■撮影環境:F14 1/6秒 ISO50 -0.7EV WB太陽光

今回、風景や花も撮影してみて、D500の基本性能の高さをあらためて感じました。AFエリアが広くミラーレス一眼に遜色ない範囲でAFによるピント合わせが可能で、構図を優先して撮影しやすいです。ライブビュー時に液晶を上向きにすることでローアングル撮影がしやすいのもいいところです。

唯一不満を感じているのは、撮影設定を一括して登録・変更できるユーザーモードが搭載されていないところです。メニュー内の「静止画撮影メニューの管理」「カスタムメニューの管理」で似たようなことができますが、この2つを一括して管理、切り換えできるようなったらより私好みになったと思います。

風景といきものの撮影の設定で切り換えが面倒なのがAF関連のもの。本当はD7500などにはあるユーザーモードがあればいいのだが、D500にはないのでカスタムメニューのAFモード設定をきちんと設定し、カスタムメニューのAに風景用、BとCにいきもの用を設定し切り替えて使っている。Fn2ボタンがマイメニューの呼び出しとなっているので、マイメニューの先頭に「カスタムメニューの管理」を登録して、素早く切り替えられるようにしている。

まとめ

久しぶりの一眼レフによる撮影で、光学ファインダーを通してリアルな光を感じながらの撮影は楽しいものでした。また、撮影イメージを頭の中で描きながら露出をコントロールするのも一眼レフならではの楽しみで、被写体を目の前にして心地よい風を感じながらゆっくり考える時間は、カメラを使って絵を描いている実感がありました。

APS-Cモデルは被写界深度が深くなるので、風景ではパンフォーカスの撮影が行いやすいですし、マクロ撮影では被写体を大きく撮影できます。これから手軽な価格でいきものを中心にネイチャースナップ向きの一眼レフカメラを手に入れたいと思っている人には、中古とはなるもののまだ程度の良いボディが流通しているので、オールマイティに使えるD500はひとつの選択肢としてオススメしたいカメラです。

 

 

■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。

 

関連記事

人気記事