新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.021 ズミルックス35mm F1.4 2nd

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.021 ズミルックス35mm F1.4 2nd

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。さて、今日はどんなアイテムにお目にかかれるのか楽しみです。

コンシェルジュのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を持ち、写真を撮るという実用の視点と趣味性の高さが両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さんが用意してくれていたのは、M型ライカ用の広角レンズ、ズミルックス35mm F1.4でした。

復刻版も出たレトロな広角レンズ

「今日ご紹介するのは、ズミルックス35mm F1.4のセカンドです」とカウンターに登場したのは1960年代に市場投入されたM型ライカ用の大口径広角レンズ、ズミルックス35mm F1.4の第2世代モデルの数々でした。ライカフェローの肩書を持つヴィンテージサロンの丸山さんが本連載vol.014で紹介してくれたのは通称シルバーリムと呼ばれるファーストモデルと復刻版でしたが、それら2本のレンズの中間の時期に製造されたものですね。

「ファーストとセカンドではレンズ設計自体はほとんど変わっていません。北村写真機店では初期型のレンズ鏡筒先端部分がシルバーリムであったものに対して、1966年以降に製造されたレンズ鏡筒先端部分が黒くなったものをセカンドとしています」

セカンドモデルのバリエーション

製造を完了した1990年まで、ズミルックス35mm F1.4はおよそ30年間も現役だったロングセラーモデルです。先端が黒い仕様になったセカンドに関しても1966年から1990年まで製造されていたので、ちょっとした外観の変更があり、その代表例を並べただけでも4種のバリエーションになっているんですね。中明昌弘さんのお薦めは画面左下のもの。

この4本の中身は大きく変わっていないそうです。「厳密にはマゼンタとかアンバーなどコーティングに若干の変更はありますが、基本的にはこのレンズ特有のにじみ感などは変わらないので、同じレンズと言っていいのではないかと思います。材質はファーストの真鍮からアルミに変わって190gの軽量になっています。軽い・小さい・写りもいいという実用的なモデルと言いたいのですが、写りがいいかどうかは意見が分かれるところです(笑)」

好き嫌いの分かれる絞り開放の描写

そうなんですよね。M型ライカ用の球面ズミルックス35mm F1.4って、絞り開放だと他のレンズとは違う感じの写真が撮れるんですよね。僕の持っているズミルックス35mm F1.4は、いま手にしているセカンドモデルのこのバージョンに近いものですけれど、絞り開放だとかなり個性的な描写をしてくれて大好きなレンズの1本です。

「レンズとして逆光にはめちゃめちゃ弱くて、ばぁ〜とゴーストが出たり、ぶわぁっとハレーションを起こしたり、じゅわぁ〜と滲んだりします(笑)」と愛情いっぱいにズミルックス35mm F1.4の描写を言語化してくれた中明昌弘さんの気持ち、よくわかります。このレンズって解像力がミリ何本とかMTFグラフの線とかではなく、オノマトペ(擬態語)で語らないと物足りない感じの描写が最大の魅力です。その反面、成績表で見ると劣等生かもしれない部分もあって、好き嫌いがハッキリと分かれてしまうレンズです。

最近では外国人の方にも人気のレンズ

「3年ほど前までは、常に在庫が20本以上あったのですが、今では限定モデルなどを除いた通常モデルで5本前後が並んでいるのが現状で、本当に人気が上がってきたと感じています。外国人のお客様でもズミルックスの2ndありますか?と探されている方が増えてきているので、この描写のクセが世界に広まってきたのではないかと感じさせるモデルです」

ふむふむ。このレンズ特有の、撮影対象を抽象化してしまう描写力って日本人の感性に訴えかけるものがあると勝手に思い込んでいたのですけれど、国際的な評価も上昇中なのですね。それは復刻版が新品として登場したということも一因かもしれないです。セカンドの中でも細部の仕様によって販売価格の相場が変わってくるそうです。せっかく4本も揃えていただいたので、年代によって異なるディテールの比較をしてみましょう。

フォーカシングレバーのバリエーション

「一番古いのがストッパーの金具が真鍮製のもの。ペイントが剥離してくると金色が出てきて格好いいです。次はストッパーの金具がアルミ製で黒塗りのもの。剥げてくるとシルバーが出てきます。これがおそらく製造数が一番少なかったので中古価格も高いですね」ふむふむ、やはり同じセカンドジェネレーションであっても数が少ないバージョンが希少価値となるのですね。

アルミの地金が出てくるのってちょっと寂しい感じだよね、だったら塗るのをヤメちゃおうか?ということなのか単にコストダウンしたかったのか、その後にストッパーの部品はアルミの地金そのままのモデルに。そして最終的にはストッパーっていらないんじゃない?という使用感からの判断なのか製造コスト削減の意味合いからか、最終的にはストッパーなしの一体成型プラスチック部品になります。

レバーの形は違っても独特のにじみ感は同じ

「このストッパーに関しては完全に趣味の領域です。フォーカシングレバー以外は大きな外観の違いはなく、コーティングに若干の違いはあるけれど光学系も一緒です。コーティングの違いによってゴーストやフレアの色が若干変わってくるけれど、ストッパーが黒く塗ったアルミか、地金そのままかなどということで写りに変わりはありません。このストッパーが無限のところでパチッ!と音を立てるのがたまらなく好きというのであれば選べばいいし、そういう方ももちろんいらっしゃいます。はい(笑)」

これは、中明昌弘さんがズミルックス35mm F1.4セカンドで撮影した作例です。マリックスT320フィルムの特性でアウトフォーカス部分の光源のエッジが赤く色付いていますが、絞り開放での独特のにじみ感がお分かりになるかと思います。

まとめ

4本並んだズミルックス35mm F1.4セカンドのうち、中明昌弘さんのお薦めはストッパーなしのプラスチック製フォーカシングレバーのモデル。中古品での販売価格がストッパー付きより相対的に安く、同じ結果を得るのにコスパが高いということですね。

「いずれにしても噛めば噛むほど、使えば使うほど味の出てくるレンズです。このレンズの開放描写のことを知らずにライカレンズ最初の1本として買ってしまうと絞り開放では暴れていると思うので、たぶん大変だと思います。少し絞れば線の細さが出たりというのがあるので、状況によって使い分けるという楽しさがあるかなと思います。だから、ぜひお試しあれという感じです」一般的には、クセのある玉と評される球面ズミルックス35mm F1.4。付け加えるなら、本シリーズの最短撮影距離は1m。古き良き時代の間合いで被写体に向き合う訓練にもなるレンズです。

 

 

■ご紹介のカメラとレンズ
・ズミルックス35mm F1.4  ストッパーなし   価格43万8000円
・ズミルックス35mm F1.4  真鍮製ストッパー  価格97万8000円
・ズミルックス35mm F1.4  アルミ製ストッパー 価格114万3000円
・ズミルックス35mm F1.4  アルミ製ストッパーブラック仕上げ  価格154万円
※価格は取材時点での税込価格

■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはQ3

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

 

 

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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