富士フイルム XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR レビュー|未来を見据えた期待の標準ズーム

内田ユキオ
富士フイルム XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR レビュー|未来を見据えた期待の標準ズーム

必然だったリニューアル

Xシリーズは標準域の単焦点に魅力的なレンズが多いけれど望遠域が弱いと言われていたのが、そこは徐々に充実してきて、変わって要望が目立つようになってきたのが標準ズームレンズ。

長らくXF18-55mmF2.8-4 R LM OISが中心にいて、おそらくXシリーズで最も多くの人が使っているレンズです。これは2012年に発売されたので、もう12年になります。

一般的にレンズは10年くらい先まで見据えて作られると言われていて、ボディに比べて長く使えますが、10年ともなるとサイクルが伸びつつあるデジタルカメラでも3から4世代もの進化を見守りながら働き続けていくわけです。

同メーカーのX100シリーズを例に考えてみましょう。2011年のFinePix X100からX100Fまで4つの世代で同じレンズが使われ続け、2020年のX100Vで刷新されました。やはり10年。

10年も経つとボディとレンズにジェネレーションギャップのようなものが生まれてきて、せっかくボディを買い替えてもなんだか解像されていないと感じたり、以前は気にならなかった周辺での甘さが気になるようになってきます。AF性能が向上したのに、それに反応して追従するのが難しくなり、ボディのポテンシャルを十分に活かしきれなくなる時がきます。

単焦点ならともかく標準ズームは「厳しくなってきたけど使い方を工夫すればまだイケる!」という使い方をするレンズではないと思います。条件や被写体を選ぶことなく、ボディの性能をフルに引き出して、フレームに入ったものはすべて破綻なく撮っていくのが本来の役割。レンズの性能を意識しない「透明な存在」であるほどいいはずで、XF18-55mmF2.8-4 R LM OISのリニューアルは必然でした。

新旧を比べてみたとき、焦点距離と明るさだけではなく、OISとWRの有無が違う。フィルター径は同じだが前玉は旧レンズのほうが大きい。ステンシルの太さや大きさにも時代の差を感じる。

進化と、時代に合わせた変化

全長はX100の高さとほぼ同じ。大きさの感覚が掴みやすいと思う。こういう何気ないことでも、バッグの仕切りなどを変更しないで入れ替えできる便利さがある。

XF16-50mm F2.8-4.8 R LM WRとXF18-55mmF2.8-4 R LM OIS、新旧のレンズを交互に付け替えて使ってみたとき、いちばん感じる進化は軽さ。

XFのズームレンズでいちばん軽いそうですが、重量だけでなく動きが軽やか。AF速度を決めるのはボディだと言われ、新旧どちらもリニアモーター搭載なのに、速さと安定感はまるで違います。防塵防滴になったおかげで細かいことに気を遣わなくて良いので、気分的な軽さもあるかもしれません。

X-T50に装着。X-T50の性能をフルに活かしたいなら標準ズームはこれがベスト。

不満が集まりそうなポイントとしては、まずはテレ側がF4.8に抑えられていることでしょうか。「F2.8通しとまでは言わなくてもF4だったのがF4.8になったのはガッカリ」という声が聞こえてきそうです。

しかしこれについては、そこで1/2段明るかったとしても撮れる写真に違いがないというのが個人的な意見。50mmだと絞り半段がボケに大きく影響するわけでもないですし、暗いところでの撮影に決定的な差が生まれるほどの違いでもありません。画質、フィルター径、重量、大きさ、価格、どれかに影響が出るのだとすれば、F4ではなくてF4.8で不満はないです。実際に使っていてテレ側があと半段明るかったらと思うことはありませんでした。

もうひとつは手ブレ補正がなくなったこと。第5世代のXシリーズのボディには7段の手ブレ補正が搭載されていて、標準ズームの焦点距離域だとレンズ内にあることのメリットは薄いので、小型軽量のために省かれたのだと予想します。

X-E4やそれ以前のボディで使うとき4段でもあると助かりますけれど、先に書いたようにレンズは10年くらいを見据えて作られると言われているので、これからのXシリーズはボディ内手ブレ補正が標準装備になっていくのかもしれないですね。望遠やマクロはレンズ内手ブレ補正を、それ以外はボディ内手ブレ補正にして、レンズはなるべく小さく軽く。次のEシリーズ、Proシリーズがあるとき、その答えがわかるのではないでしょうか。

近接性能と、前の世代で使ったときの画質を見てみたくてX-Pro3に付けて撮ってみたもの。マウント部分の金属の質感、ボディ表面のキメ、いずれも見事に解像されている。手ブレ補正がない不便さはあるが、旧世代のボディにこだわりがあって使い続けたい人にとっても価値あるアップデート。
■撮影機材:富士フイルム X-Pro3 + XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/1400秒 絞りF5 ISO1600
■フィルムシミュレーション:PRO Neg.Hi

使ってみて感じること

上に書いたようないくつかのトレードオフがあって、重量は310gから240gと20%以上も軽くなり、外寸の直径は65mm、フィルター径も58mmのままとなっています。同じスペックでも大きく重くなっていく昨今のレンズの流れからすると、飛躍的な小型軽量化と言って良いと思います。

さらにズーミングしても全長は均一。ドローンに搭載したときに重量バランスが変わらないとか、細かいところで影響があるのでしょうが、ズームレンズが繰り出されたときカッコ悪くなっていく姿が好きでないので、その点も嬉しいです。

新旧レンズでどちらもテレ側にしてツーショット。繰り出しがないのが一目瞭然。

もうひとつ嬉しかったのが全域で24cmの最短撮影距離という近接性能。ワイド側だけ寄れてスペックを稼いでいるのではなくテレ側でも寄れるため、撮影倍率としてハーフマクロの性能があります。繰り出しがないのが活きて、最短撮影距離で撮りながらズーミングしても被写体への干渉がありません。使い勝手がいいです。

テレ側での最短撮影距離で、絞り開放。APS-CでF4.8ではボケないだろうと思いがちだが、ここまで寄ればピントは浅い。ボケへの繋がりも滑らかで美しい立体感がある。
■撮影機材:富士フイルム X-T50 + XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/125秒 絞りF4.8 ISO320
■フィルムシミュレーション:Classic Chrome

標準ズームの難しさは、広角と望遠でそれぞれレンズに求められるものが違い、出やすい欠点も違うのに、同じレンズ構成で対処しなければならないことだと聞いたことがあります。このレンズの場合はハーフマクロとしての近接での描写性能も求められます。

最初に書いたように標準ズームに「この絞りでこの焦点距離のときは最高」などというポイントは必要ありません。どの焦点距離も、どの絞りも、画面の中央から周辺まで、欠点なく撮れることのほうがずっと大切。

かなり贅沢に3枚の非球面レンズと3枚の超低分散(ED)レンズを使い、色収差を抑えています。レンズがリニューアルされるとき必ず色収差について触れていますし、古いレンズを使ったとき写りでいちばん気になるのは、味わいに感じられることもある解像の甘さよりも、ノイズである色の滲みであることが多いので、重要視されているのでしょう。

大きな丸ボケは作れないですが、9枚の絞り羽根が入っていて円ボケも形が崩れず、濁りのない素直なボケを描きます。

テレ側での撮影。直線が多いものを撮ってみたが、歪曲収差は気にならない。ガラスなどは解像力が求められ色の濁りが出やすく、レンズの性能が見えやすい。この写真の中では脇役となっていて、でもそこをしっかり描写できることに意味がある。
■撮影機材:富士フイルム X-T50 + XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/20秒 絞りF5 ISO64
■フィルムシミュレーション:Velvia
クラシックネガを使って「エモい!」「フィルムライク」と呼ばれるムードで撮ってみた。強烈な逆光なのにハレーションがなく、色被りして見えるのにバランスが崩れていない、最新のレトロであることがわかる。
■撮影機材:富士フイルム X-T50 + XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/10秒 絞りF22 ISO64
■フィルムシミュレーション:Classic Neg.

現在から未来に向けて

大事なことを忘れていました。レンズ名を見ればわかるように従来レンズから望遠側が5mm短くなり、広角側で2mm広くなりました。55mmくらいからポートレートの領域に入っていくので、一対一で人物やペットを撮るようだと物足りないと感じるケースがあると思います。

大きさはトリミングで対応できたとしても、広さは・・・と考えたわけではないでしょうが、ワイド側が足りなくて困ることのほうが多いですから自然な変化です。

旅を想定したとき、これ一本でほとんどのシーンをカバーできます。高台からの広大な景色、建物、一緒に旅する友人、食べ物、季節の花。メインを単焦点にして、何かあったときのため広くカバーできるレンズを持ちたいという場合にも便利。

ワイド端16mmでの撮影。周辺まで均質で、色の濁りもない。この辺りが最高だぜ!というところはないけれど、これをキッチリ撮れることに標準ズームの価値がある。
■撮影機材:富士フイルム X-T50 + XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/1500秒 絞りF4 ISO250
■フィルムシミュレーション:Velvia
ズームレンズのありがたみを最も感じるのは、前後に動けない場所。画面いっぱいに撮りたい、でも無駄なものは入れたくないというフレーミングをするため、35mm相当での撮影となった。遠景に写っているアンテナなど細い線も崩れていない。
■撮影機材:富士フイルム X-T50 + XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/12秒 絞りF4 ISO1000
■フィルムシミュレーション:ASTIA

これくらい軽快に動くなら、コンティニュアスAFにして動画でも撮るようにシャッターを押しまくるのも楽しいかもしれません。構図を決める→ピントを合わせて露出を決める→シャッターを切るという断片的なシークエンスが、構図を決めながらシャッターを切っている間にピントと露出が合い続けて・・・といったシームレスな動きに変わっていくかもしれないです。

そういう可能性も含め、これからの時代の標準ズームとして期待しています。ボディは現在の視点から評価されていいと思いますが、レンズの価値を決めるのは「どんな写真を、どれだけたくさん撮ったか」だと思います。

X-T50の記事でもこのレンズを使っていて、ボディの性能に依存するものはそちらで試しているので、併せて読んでみてください。

この広がりとスケール感は18mmだと出なかったもので 16mmに拡大されたおかげ。33mmや56mmあたりの人気の単焦点をメインにするとき、バッグに入れておくと安心できる。
■撮影機材:富士フイルム X-T50 + XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/800秒 絞りF7.1 ISO250
■フィルムシミュレーション:ETERNA ブリーチバイパス

 

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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