モノクロのススメ vol.4 「露出補正を決める」|佐々木啓太

佐々木啓太
モノクロのススメ vol.4 「露出補正を決める」|佐々木啓太

はじめに

モノクロのススメvol.4は露出補正の解説です。実はモノクロの露出補正はカラー以上に大切で、ちょっと極端に使うのがオススメです。

使用するカメラとレンズ

カメラ:FUJIFILM X-E3
レンズ:XF23mmF2 R WR

今回はミラーレスカメラを使って解説します。ミラーレスカメラの最大の利点は撮影結果を見ながら撮影できることです。そんなシステムを使いながら、露出補正を決めてからカメラを構えるチャレンジで露出に対する感覚を鍛えてください。結果を確認してから撮影していると光のタイミングを逃すことがあります。さらに、露出補正に対する感覚を養っていくと光に対する感覚も身につきます。

撮影は全て、絞り優先オート + ISO感度オートで露出補正だけを意識していたので、撮影データも露出補正を中心にしました。

露出補正を-1.0EVで固定しよう

思い切って、露出補正を-1.0EVに固定すると影の黒が引き締まったモノクロになります。ただ、光が弱い同じような明るさの条件では全体が暗くなるだけになります。そんな-1.0EVでも絵になるアングルで撮影してください。

■絞り優先オート F5.6 露出補正 -1.0EV ISO感度 AUTO WB 太陽光 カスタムイメージ ACROS+Ye
白い車を背景から浮き上がらせることを狙いました。アンダー露出にすると余白のような空間が黒く引き締まります。
■絞り優先オート F5.6 露出補正 -1.0EV ISO感度 AUTO WB 太陽光 カスタムイメージ ACROS+Ye
雲の質感をしっかり出すことを狙っています。手前の木や建物が黒く潰れた感じになっているのは雲の質感のためと、撮影時はある程度諦めて画像処理の仕上げで少し明るくしました。ちなみに手前の木や建物がないと-1.0EVでは暗くなりすぎる条件になります。
■絞り優先オート F5.6 露出補正 -1.0EV ISO感度 AUTO WB 太陽光 カスタムイメージ ACROS+Ye
地面がしっかり黒く重みを感じるような雰囲気を狙いました。地面がしっかり黒くなると小さな水溜りに光が反射している様子が強くなります。

露出補正を撮影条件でコントロールする

-1.0EVに固定する撮影に慣れてきたら撮影条件に合わせて露出をコントロールしましょう。そのときにミラーレスのEVFファインダーを覗きながらではなく、露出補正値を決めてからファインダーを覗くようにすると、露出に対する感覚を養う練習になります。

■絞り優先オート F5.6 露出補正 -1.3EV ISO感度 AUTO WB 太陽光 カスタムイメージ ACROS+Ye
手前の影の印象を強くするために露出補正を-1.3EVと暗めにしました。-1.0EVとは0.3EVの違いですが、影の黒を引き締めるためには必要な差です。
■絞り優先オート F5.6 露出補正 -2.3EV ISO感度 AUTO WB 太陽光 カスタムイメージ ACROS+Ye
奥の光が当たっている場所が白くトバないようにすることを意識しました。このように明暗差が大きくなる条件では、明るいところが白くトバない露出にしないとそこばかりが目立って写真から力が逃げていきます。
■絞り優先オート F5.6 露出補正 -0.7EV ISO感度 AUTO WB 太陽光 カスタムイメージ ACROS+Ye
雲の質感と雲が輝いているところの印象を同時に再現することを狙いました。

雲の質感を出すと輝きを同時に捉える露出コントロールはかなり難しいので中・上級者向きです。雲の露出が難しいのは雲の白さを出すためにはプラス補正が必要なのに質感を出すためにはマイナス補正が必要で、そのバランスをとらなければいけないからで、そのバランスは光の当たり具合で変わります。

露出で印象が変わる

モノクロ撮影で露出補正が大切なのはカラーのときより写真の印象が変わりやすいからで、特に黒の引き締まった感じを作るためには撮影時の露出補正が必要です。ここではわかりやすいように比較を使いますが、左側が私が狙った露出です。

左■絞り優先オート F5.6 露出補正 -1.0EV ISO感度 AUTO WB 太陽 カスタムイメージ ACROS+Ye
右■絞り優先オート F5.6 露出補正 0EV ISO感度 AUTO WB 太陽 カスタムイメージ ACROS+Ye

この比較では黒の締まりを意識していて、-1.0EVで撮影した写真の方が黒がしっかり締まっています。締まっているというより潰れていると感じる方も多いと思いますが、露出補正なしの写真はカラーからの変換のイメージに近く、モノクロらしい陰影の強さが足りない感じです。

左■絞り優先オート 絞り F5.6 露出補正 0EV ISO感度 AUTO WB 太陽 カスタムイメージ ACROS+Ye
右■シャッタースピード 1/220秒 絞り F5.6 露出補正 +1.0EV ISO感度 AUTO WB 太陽 カスタムイメージ ACROS+Ye

左の露出補正をしていない写真はかなり重たい雰囲気で、これから雨が降りそうな厚い雲になっていますが、そんな雲をイメージしながら撮影しました。モノクロの露出補正はどんなイメージにするかがポイントです。右の露出補正を+1.0EVした写真は見た目の明るさに近くそれほど印象的に感じません。ちなみに後から画像補正をすれば良いというのも楽で良いとは思うのですが、撮影時にイメージを広げた方がモノクロらしく風景を見ることにつながるので、結果的にモノクロ写真が楽しくなります。

カメラに内蔵されている露出計は反射した光で露出を測っています。そのために、影や地面など暗いものは光を吸収するので、カメラに届く光が弱くなって露出補正をマイナスにしないと明るくなりやすい特徴があります。雲のように明るい被写体はカメラに届く光が強くなるので露出補正をプラスにしないと暗くなる傾向にあります。その傾向を逆手にとって、雨が降りそうな厚い雲というイメージのために露出補正をしない方が狙い通りになります。

オートブラケット撮影は厳禁

ここでカメラ機材に対する知識のある方は、オートブラケットという露出を自分が決めた間隔で変えて、カメラが自動で撮影してくれる機能を使えば良いと思うかもしれませんが、それは厳禁です。厳禁はかなりきつい書き方ですが、モノクロ写真で一番大切なのは光に対する感覚です。この感覚が養われるとモノクロ写真が楽しくなります。そして、楽しくなれば、自分なりのモノクロ撮影ができるようにもなります。オートブラケット機能を使って露出を決めるカメラ任せではこの感覚は養われないので、自分なりの経験を増やしましょう。オートブラケット機能についての知識がない場合は、そのまま今回の少し手間がかかる方法を試してください。

最後はクイズ

最後は露出補正値を当てるクイズを作りました。私が写真専門学校にいたころはまだフィルム全盛で、休み時間にみんなで集まると「あそこの露出はどれぐらい?」そんなクイズを出し合って遊んでいました。それは写真専門学校の学生だからというのもありますが、私はそれほど優秀ではなかったので、勉強のためというより遊びでやっていました。そんな遊びが露出に対する感覚を自然に養ってくれていたことは後で知ることになります。そんな遊び感覚で露出補正を予想してください。

■絞り優先オート 絞り F5.6 ISO感度 AUTO WB 太陽 カスタムイメージ ACROS+Ye
影の黒の締まりを意識しています。
■絞り優先オート 絞り F5.6 ISO感度 AUTO WB 太陽 カスタムイメージ ACROS+Ye
影のシルエットをしっかり黒くすることを意識しています。

まとめ

この連載もだんだん内容がマニアックになっているので、読んでもすぐに理解できないかもしれません。これは光の扱いは感覚的な要素が多いからでもあります。まずは、遊び感覚で露出補正を-1.0EVに固定してから撮影を始めて、光に対する感覚をつかんでください。

【クイズの解答 上:-1.3EV 下:-1.7EV】

 

 

■写真家:佐々木啓太
1969年兵庫県生まれ。写真専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。街角・森角(モリカド)・故郷(ふるさと)というテーマを元に作品制作を続けながら、「写真はモノクロ・オリジナルはプリント」という
フィルム時代からの持論を貫いている。八乃塾とweb八乃塾を主宰しフォトウォークなども行い写真の学びを広めている。

 

 

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