風景写真撮影テクニック~プリント編~|齋藤朱門

齋藤朱門
風景写真撮影テクニック~プリント編~|齋藤朱門

はじめに

今回は風景写真のプリントを行う際に必要なプリンタや紙の選び方、筆者が行っているプリントに役立つTIPSを紹介したいと思います。

風景写真は写真展やポートフォリオ制作、販売用に限らず個人的にお気に入りの一枚をプリントして飾るなど、さまざまな目的でプリントする機会があると思います。

筆者は、風景写真はプリントして仕上げることではじめて作品として完成すると考えていることもあり、常に最終的にはプリントすることを念頭に写真を撮影・後処理などを行うようにしています。WebやSNS用にディスプレイ上で仕上げてある写真であっても、プリント結果を満足するものに仕上げるためにはいくつかのコツがあります。

インクジェットプリンターを使う

自分自身で写真をプリントする場合にはインクジェットプリンターを使う方法が最も手軽だと思います。写真用インクジェットプリンターも初心者用からプロ用までさまざまな製品がありますが、特に上位機種は銀塩プリントにも見劣りしない、高品質なプリントが可能です。

インクの種類

インクジェットプリンターを選ぶ際の重要なポイントとして、インクの種類があります。各社さまざまなインクジェットプリンター製品を出していますが、次に説明する顔料インク(顔料プリンター)と染料インク(染料プリンター)のどちらを選択するかは作品づくりに大きく影響しますので、それぞれの特徴をよく知る必要があります。

顔料インクと染料インク

インクジェット用のインクには顔料インクと染料インクと2つの特性の違いのあるインクがあり、それぞれ仕上がりが異なるため、仕上げたい作品のイメージに合わせて使い分けることが重要です。

顔料インク
インクを紙の表面に付着させる方法のインクです。
階調が豊かで高精細であるという特徴があります。また、顔料インクはさまざまな紙を使うことが可能です。美術館グレードのファインアート紙と組み合わせることで色褪せない長期間保存可能も可能なため、筆者は作品制作には顔料インクを使用することが多いです。

染料インク
インクを紙の表面に染み込ませる方法のインクです。
染料インクの特徴としては、発色が鮮やかで、光沢感があるという点が挙げられます。また、一般的には顔料インクよりも表現できる色域も広いと言われています。

インクの違いに関して、より詳しい説明は各プリンタメーカーのHPなどでも確認することができますので、参考にしてみてください。

EPSON
https://www.epson.jp/katsuyou/photo/article/ink/
Canon
https://cweb.canon.jp/proline/special/howto/basic/lesson01/

筆者のおすすめのプリンタ

あくまでも筆者の個人的な好みになりますが、作品制作には顔料プリンタ(顔料インク)が向いていると考えているため、以下のプリンタをおすすめします。

●EPSON SC-PX1VL, SC-PX1V
●Canon PRO-1000, PRO-G1

特にEPSON SC-PX1VLやCanon PRO-1000はA2サイズまで対応しているので、迫力がある風景写真を大きく引き伸ばして飾りたい場合におすすめです。

紙の種類

写真プリント用の紙も各社から様々なものが販売されていますが、展示作品用途であればいわゆるファインアート紙と呼ばれているものが保存性が高く、紙質・風合いもさまざまなものがあり良いと思います。

また、メーカー純正のファインアート紙もあります。メーカー純正の紙を選ぶ利点としては、後で説明するプロファイルがあらかじめプリンタ用アプリに組み込まれているため設定が簡単であったり、プリンタの設定方法やインクとの相性も明確であるという点があります。

さまざまな質感

ファインアート紙にも光沢の具合や表面の質感・テクスチャの違い、紙の色等の違いによりさまざまなものがあります。基本的には作品とマッチする紙を個人の好みで選択することになりますが、選ぶ際に気をつける点を挙げておきます。

光沢系・マット系
ファインアート紙を選ぶ際、まずは光沢系にするかマット系にするかで大きく分かれると思います。光沢系の紙はコントラストが高く、また階調豊かなものが多いです。ダイナミックだったり、色鮮やかなイメージに仕上げたい場合は光沢系の紙がマッチすると思います。

光沢系:ハーネミューレ Photo Rag Baryta

逆に落ち着いたイメージに仕上げたい場合は、マット系の紙が合うと思います。

マット系:ハーネミューレ Albrecht Durer

紙の色
紙の色はもちろん白色なのですが、白と言っても暖色系から寒色系までさまざま白があります。プリントする際、紙の色が白色の基準となるため、例えば暖色系の白色の紙の場合、作品もなんとなく暖色よりになってしまう場合があります。作品とマッチすれば問題ありませんが、気になる場合はニュートラルな白色の紙を選択すると良いでしょう。

参考までに、個人的な好みでよく使用するファインアート紙を紹介しておきます。

●ハーネミューレ ファインアートバライタ、フォトラグバライタ
●キャンソンインフィニティ フォトグラフィックII

ファインアート紙はとても高価ですが、KGサイズや2Lサイズのものが用意されていたり、またバラエティパックのようにさまざまな紙質のものを組み合わせたセットも販売されていますので、大きなサイズのものを購入する前に小さいサイズで試すことも可能です。

ICCプロファイルについて

紙選びの本質とは少し異なりますが、プリントするためにわりと重要なこととして、使用するプリンタ用のICCプロファイルデータが用意されているかどうかという点があります。

というのも、このICCプロファイルが無いと、ディスプレイとプリントで色を合わせるのが困難になるためです。(自分で作成することもできますが、高価な機材が必要です)

ICCプロファイルは各ファインアートメーカーのHP等からダウンロードすることが可能ですので、お使いのプリンタに合致したものが提供されているかを事前に確認しておくと良いでしょう。

ハーネミューレ
https://www.hahnemuehle.com/en/digital-fineart/icc-profile.html
キャンソンインフィニティ
https://www.canson-infinity.com/jp/icc-profiles
ピクトリコ
https://www.pictorico.co.jp/system/contents/1065/

作例

以前、EPSONギャラリーさんでインクジェットプリントで個展を開催した際の作品をいくつか紹介したいと思います。
https://www.epson.jp/showroom/marunouchi/epsite/gallery/exhibitions/2019/1213/

展示の様子

展示の際、これらの作品はハーネミューレのファインアートバライタ紙を使用し、EPSONのインクジェットプリンターで制作しました。(B0~B2サイズで制作)

■撮影機材:ソニー α7R III + シグマ 24-105mm F4 DG OS HSM
■撮影環境:マニュアル露出・51mm・F11・ISO125・1/125秒
■撮影機材:ソニー α7R III + シグマ 100-400mm F5-6.3 DG OS HSM
■撮影環境:マニュアル露出・400mm・F8・ISO100・1/2000秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:マニュアル露出・18mm・F16・ISO100・1/50秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:マニュアル露出・21mm・F16・ISO100・1/3秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:マニュアル露出・118mm・F11・ISO100・1/640秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 24-105mm F4 G OSS
■撮影環境:マニュアル露出・31mm・F11・ISO100・20秒

まとめと次回について

今回は風景写真のプリントを行う際に必要なプリンタや紙の選び方を説明しました。

写真用プリンターとファインアート紙があれば、基本的には展示やポートフォリオ用のプリント作品を制作することができます。自分に合ったプリンターと紙で風景写真のプリントにチャレンジしてみると楽しみがより広がるでしょう。 

しかし、実際にプリントしたことがある方は分かると思いますが、残念ながら実はこれだけではディスプレイに表示された写真とプリントの色を完全に一致させることは難しいことがあります。

次回はこの色の違いを解決するために必要なディスプレイキャリブレーションという作業について説明したいと思います。

 

 

■写真家:齋藤朱門
宮城県出身。都内在住。2013年カリフォルニアにて、あるランドスケープフォトグラファーとの出会いをきっかけにカメラを手に取り活動を始める。海外での活動中に目にした作品の臨場感の素晴らしさに刺激を受け、自らがその場にいるかのような臨場感を出す撮影手法や現像技術の重要性を感じ、独学で風景写真を学ぶ。カメラ誌や書籍での執筆、Web等を通じて自身で学んだ撮影方法やRAW現像テクニックを公開中。

 

 

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